意外と知らない扶養の認定要件
みなさんは健康保険の扶養認定要件に関して、どれほどの認識を持っているでしょうか。
「収入が130万円未満」、「被扶養者となる者が社会保険に加入していない」の要件を満たせば、被扶養者となれるという理解でしょうか。
大まかには合っていますが、他にも細かい要件があることをここで理解していただけたらと思い、今回は「扶養の認定要件」について投稿させていただきました。まず初めに、被扶養者の範囲はと言うと、以下の1~4の者であって、後期高齢者医療の被保険者等でない者を言います。(※後期高齢者医療の被保険者等とは、ざっくり言うと75歳以上の者、65歳以上75歳未満で所定の障害認定を受けた者を指します)
【被扶養者の範囲】
- 被保険者の直系尊属(父母・祖父母・曾祖父母etc.)、配偶者(届出をしていないが、事実上婚姻関係と同様の事情にある者を含む)、子、孫及び兄弟姉妹であって、主としてその被保険者により生計を維持する者
- 被保険者の3親等内の親族で上記1以外の者であって、その被保険者と同一の世帯に属し、主としてその被保険者により生計を維持する者
- 被保険者の配偶者で届出をしていないが事実上婚姻関係と同様の事情にあるものの父母及び子であって、その被保険者と同一の世帯に属し、主としてその被保険者により生計を維持する者
- 上記3の配偶者の死亡におけるその父母及び子であって、引き続きその被保険者と同一の世帯に属し、主としてその被保険者より生計を維持する者
1の場合は、被保険者により生計を維持されていれば良く、2~4の場合は生計維持に加え同一世帯に属していることが要件となります。
下の親族図を見ていただければ、親族の範囲についてはイメージがしやすいかと思います。(①~③は親等数)
さて、ここからは「主として被保険者により生計を維持する者」「被保険者と同一の世帯に属する者」について掘り下げていきます。
【主として被保険者により生計を維持する者】
「主として被保険者により生計を維持する者」に該当するかどうかの認定は、以下の基準によります。
- 認定対象者が被保険者と同一世帯に属している場合は、次のように取り扱う
- 認定対象者の年間収入が130万円未満※であって、かつ、被保険者の年間収入の2分の1未満である場合は、原則として被扶養者に該当するものとする
- 上記1の要件に該当しない場合であっても、その認定対象者の年間収入が130万円未満※であって、かつ、被保険者の年間収入を上回らない場合には、その世帯の生計の状況を総合的に勘案して、被保険者がその世帯の生計維持の中心的役割を果たしていると認められるときは、被扶養者に該当するものとして差支えない
- 認定対象者が被保険者と同一世帯に属していない場合は、認定対象者の年間収入が130万円未満※であって、かつ、被保険者からの援助による収入額より少ない場合には、原則として被扶養者に該当するものとする
※130万円未満:認定対象者60歳以上又は概ね厚生年金保険法による障害厚生年金の受給要件に該当する程度の障害者である場合には180万円未満
ここでようやく「年間収入が130万円未満」の要件が出てくるわけですが、では、ここでいう「年間収入」とは給与収入だけでしょうか。
答えはNOです。
「年間収入」はすべての収入を対象とするので、公的年金や雇用保険の失業等給付も原則として含まれます。
不動産収入は?
株式の配当金は?
実は上記について年金機構のホームページ「従業員が家族を扶養にするときの手続き」には載っていないのですが、同ホームページの「主な疑義照会と回答について」より年金機構の回答を見ることができます。
「主な疑義照会と回答について」によると年間収入の算定方法においては、以下と同様の扱いがされていることが確認できます。
[ 昭和61年4月1日 庁保険発第18号 ]
○国民年金法における被扶養配偶者の認定基準の運用について
「年間収入」とは、認定対象者が被扶養配偶者に該当する時点での恒常的な収入の状況により算定すること。したがつて、一般的には、前年の収入によつて現在の状況を判断しても差し支えないが、この場合は、算定された年間収入が今後とも同水準で得られると認められることが前提であること。
なお、収入の算定に当たつては、次の取扱いによること。
(1) 恒常的な収入には、恩給、年金、給与所得、傷病手当金、失業給付金、資産所得等の収入で、継続して入るもの(又はその予定のもの)がすべて含まれること。
(2) 恒常的な収入のうち資産所得、事業所得などで所得を得るために経費を要するものについては、社会通念上明らかに当該所得を得るために必要と認められる経費に限りその実額を総額から控除し、当該控除後の額をもつて収入とすること。
(3) 給与所得(給与、年金、恩給等)は、控除前の総額を収入とすること。
このことから、不動産収入等恒常的な収入については年間収入の算定に含め、ピンポイントでの回答はありませんでしたが、上記から解釈すると株式の配当等の一時的な収入は年間収入の算定には入らないことが言えます。
ということは、極論を言えば被扶養者が宝くじを当てたとしても一時的な所得である限り扶養のままでいられるということでしょうか。
【被保険者と同一の世帯に属する者】
「被保険者と同一の世帯に属する者」とは、被保険者と住居及び家計を共同にする者を言います。
なお、被扶養者が一時的に入院している場合であってもそのことにより被扶養者の認定が取り消されることはありませんし、入院中であっても入院前から同居している場合には新たに被扶養者として認定を受けることができます。
以上、被扶養者の認定基準を見てきましたが、いかがでしたでしょうか。
最後に「主な疑義照会と回答について」より一風変わった回答がありましたので、こちらを紹介して今回の投稿の結びとさせていただきます。
【案件】被扶養者の認定について
【内容】外国籍(アフガニスタン国籍)の被保険者で、同国籍の妻が被扶養配偶者として既に認定されていますが、母国(アフガニスタン)で多妻制を採用しており、新たに入国した別の妻についても被扶養配偶者として認定できるかご教示ください。また、認定が可能な場合、オンラインの登録上支障がないかどうかも併せてご教示ください。なお、いずれの妻も日本国内で被保険者と同居しており、外国人登録原票記載事項証明書の続柄は両名とも「妻」と記載されています。
【回答】健康保険法における被扶養者の取扱いについても、国民年金第3 号被保険者の取扱いと同様、民法を前提としていると考えるのが妥当であり、一夫多妻制が認められている場合の配偶者に関しては、最も先行する1 名を被扶養者とすることを原則とします。ただし、被保険者と当該被扶養配偶者との関係が形骸化している場合は、それに続く配偶者を被扶養者とすることになります。
※形骸化(けいがいか):成立当時の意義や内容が失われたり忘れられたりして、形ばかりのものになってしまうこと。